「中国を批判するなら世界貿易機関(WTO)から直ちに脱退せよ」「日米欧も対中ハイテク輸出を規制している」。今年10月、中国によるレアアース(希土類)輸出規制を不当として共同提訴していた日本と米国、欧州連合(EU)の主張をWTOが大筋で認め、中国に是正勧告する中間報告をまとめたとの報道に、中国版ツイッター「微博」で一斉に反発の声が上がった。レアアースはハイブリッド車(HV)やIT(情報技術)機器に欠かせない材料であり、日本企業はかつて90%以上を中国産に頼ってきた。
WTOに2001年に日米欧の支援で加盟した中国はその際、レアアース輸出税の原則撤廃を取り決めていた。だが、尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖での10年9月の中国漁船衝突事件を受け、日本などに事実上の禁輸措置を取り、“外交カード”をチラつかせて牙をむいた。
WTOは中国の約束違反を突いたが、実はWTOで審議が行われているうちに、中国にとって最大の輸出先だった日本が海外調達先の多様化やリサイクル技術開発などで対中依存度を大幅に減らし、形勢が逆転した。
「輸出はボロボロ。お手上げだ」。中国のレアアースを扱う貿易会社の台湾人経営者(46)は嘆いた。中国政府が定めた今年の輸出枠は3万1001トンだが、実際の輸出量は半分以下の1万5000トンにも届きそうにない。輸出量が輸出枠を割り込むのは3年連続となる。
しかも、1トン当たりの平均価格が前年比60%以上も下落。内モンゴル自治区では7月、最大手の包鋼稀土高科技がレアアース鉱石選別場の操業停止に追い込まれるなど、中国レアアース業界は崖っぷち。WTOや日米欧を非難するネット上のコメントは、数年前まで市場を支配した「レアアース王国」崩壊の危機へのいらだちとも読める。
だが、中国は起死回生の戦略を練っている。「お手上げ」と話した台湾人経営者は2月、レアアース産地である江西省のある街の役所で、日本人のビジネスマン数人とすれ違った。「確か日本で会ったことがある」
この町で日本人を見るのは珍しい。経営者は地元政府の幹部を酒席に誘い、内部情報を聞き出した。「日本の自動車部品や電子部品の大手企業に、産地でのレアアース加工合弁事業を誘致している」。この時点で既に数社が積極的になっていたという。役所で見かけた日本人は以前、レアアースを納入した自動車部品大手の担当者だった。
地元政府が描いたシナリオはこうだ。地元企業との合弁でHV向け部品工場を江西省につくらせ、HV製造に欠かせない最先端のレアアース加工技術を日本から持ち込ませる。輸出に頼らずレアアースを国内で売り、高度な加工技術も取得する。日本へのしたたかな巻き返しが始まっていたのだ。
自動車業界関係者は、こうした部品メーカーのレアアース産地への工場進出は、大手完成車メーカーの意向に基づくと話した。中国は今年、歴史上世界で初めて新車販売台数が2000万台を超えることが確実。一方で昨年秋の反日デモによる不買運動で、日系ブランド車は中国で苦戦が続く。「江西省でレアアースを使う工場を建設する見返りに、中国のHV販売での優遇措置を与えるとの取引をもちかけられた」という。
こうした作戦は江西省に限らない。別のレアアース産地である内モンゴル自治区や広東省でも、地元政府が日本の電子部品大手に、市場参入への便宜や税制面などの優遇と引き換えに、工場進出を働きかけている。
巨大な成長市場への切符をチラつかされれば、経営者の心は揺れる。門外不出だったはずの貴重なレアアース加工技術をあっさり中国に持ち出すことに、台湾人経営者は驚きを隠さなかった。中国の“ささやき”に高度な技術をもつ日本企業が続々と応じるようになれば、中国からみてレアアース輸出が不調でも、国内で加工から製品化、販売まで完結できる上、レアアース国際価格の下落に歯止めがかけられる。WTOの勧告も中国国内の取引には及ばない。
中国の最高指導者だったトウ小平は1992年に、「中東に石油あり。中国にはレアアースあり」と豪語し、戦略性の高いレアアースの使い道を訴えた。WTOも「ノー」をつきつけた禁輸措置のみならず、野放図な拡大路線で生産能力が世界のレアアース需要の3倍に達し、国際社会からもしっぺ返しされた“外交カード”だったが、中国は国内完結型という新たな手法で巻き返しに躍起になっている。
YAHOOニュース より抜粋